5.夏の風物詩 寒天 食の効用ABC

夏の風物詩 寒天

身体を適度に冷やす


 暑い夏には、トコロテンのほか、みつ豆やゼリー、水羊羹など寒天を使った和菓子がおいしく感じられます。これは、トコロテンや寒天は、寒性といって、体を適度に冷やす天然の冷却材として働くからです。現代のような寒天が作られたのは江戸時代からです。テングサを煮溶かして絞り、もろぶたに移し、冷えて固まったものが生天、トコロテンです。それを長四角や糸状に切って冬の田んぼで凍らせたものを、10日から2週間かけてゆっくりと溶かして乾燥すると、トコロテンの干物、寒天ができます。昼夜の寒暖の差が大きい諏訪盆地などでできるものが特に上質とされます。


自然が作る陰陽調和食


 塩分を多量に含んだ陽性の環境である海に育つ海草は、元来、陰性の性質が強くなります。その陰性の海草に、自然のフリーズドライ製法とでもいうべき凍結と乾燥という厳しさを加えることによって、陽性の性質を高め、陰陽調和させた 食べ物が寒天です。その結果、ゼラチンの7~8倍の凝固力(固める力は陽性)があり、摂氏30~40度の常温で固まる(低温でないと固まらないものは陰性)性質をもちます。寒天や寒天の前の状態のトコロテンは、盛夏には暑気を払い、厳冬には寒気に耐える食べ物と古くから言い伝えられ、日本人の食卓に四季を問わず用いられ てきました。


痰を溶かして痔にも効く


 寒天に含まれる炭水化物は、多糖類のガラクトースやアガロースです。これらの多糖類は腸内では、消化吸収されず、エネルギーに変わらない、カロリーゼロ食 品です。そのため肥満の人のダイエット食品に最適です。動物性の骨や筋、皮から作るゼラチンに対し、寒天は海草由来のヨードやカルシウム、リン、鉄が豊富です。これらのミネラルには痰の固まりを溶かす去痰作用があります。

 また体を適度に冷やす寒性がある寒天は、のぼせ性の人や高血圧の人にも効果が期待できます。さらに熱をしずめるため痔にも有効です。赤く腫れた痔で歩くことのできなかった人が、寒天を常食して痛みや腫れがいいた例も報告されています。


細胞の結合を強化


 最近とくに膝の痛みやリウマチに悩む人が増えています。いずれも細胞間の結合組織の病気で、ゼラチン質の動物性のコラーゲンによる効果が注目されていま す。中医学の類似の法則では、寒天は物を結合する力が強いことから、結合組織の病気に効果が期待できると思われます。ムコ多糖(コンドロイチン硫酸)は食物の多糖類とタンパク質によって構成されており、コラーゲンと同様に細胞間の結合組織の病気や粘膜の病気に有効なことがわかっています。
 寒天やトコロテンの味噌漬けは、寒天の多糖類と味噌の良質のタンパク質が結合した最良のムコ多糖を構成するものと思われます。寒天と小豆を組み合わせた羊羹も同様です。ただし甘味を入れすぎると効果が半減します。動物性のコラーゲンには薬物残留の危険性もありますので、植物性でしかも骨を構成するミネラルに富んだ海草由来の寒天を活用してください。


寒天は食物繊維の王様

 

 寒天に含まれる食物繊維の量は100グラム中に81%と食品の中では一番多く、レタスなど筋のある野菜の100倍にもなります。食物繊維は腸内の老廃物のお掃除役として注目されており、便秘の解消にも役立ちます。腸内環境が悪玉菌優勢になると、善玉菌の活動が弱まり、ビタミンやホルモンが合成されなくなったり、免疫機能も低下するので、病気にかかりやすくなります。生活習慣病を予防する最良の方法は腸内環境を良好に保つことで、そのために必要な栄養素が食物繊維です。善玉菌を活性化する食物繊維は、腸内に入った食品添加物やダイオキシンなどの毒素を吸着して排出する働きがあり、大腸ガンを防いでくれます。

 また血糖値の上昇を抑える作用もあるので、糖尿病などで血糖値の気になる人にもおすすめです。未精製の穀物や野菜、豆類、漬物などと寒天を取り合わせると、より強力に体のお掃除をしてくれます。

 暑い時期には、寒天やトコロテンを活用し、夏バテを回避しましょう。