
おひさまと大地の恵み 切り干し大根
大地のエネルギーをたっぷり吸収してできた大根に、太陽の光と熱のエネルギーを加えて干し上げたのが切干大根です。秋に収穫した大地の恵みいっぱいの大根を細く切って冬の日差しと冷たい風で乾燥させると大根の干物・切り干し大根ができあがります。
全国の生産高の約九割を占めるのが宮崎県で、手作業で切り干し大根の生産が行われています。宮崎は火山灰地が多く、大根栽培に適しています。
いい切り干し大根をつくるには、日照時間のながいことが条件です。また、空気が乾燥していて、大根が凍るか凍らないかという気温が保たれることが必要だそうです。冬の宮崎は晴天に恵まれることが多く、九州山地からは冷たい風が「霧島おろし」となって吹きつけるので、切り干し大根には最適の風土になるようです。
<食物繊維の王様・切り干し大根>
食物繊維が大量に含まれるのが切り干し大根の特徴ですが、干すことで生の大根に少ないリグニンなどの不溶性食物繊維が急激に増加します。この不溶性食物繊維は生大根に比べてなんと二十一倍にも増えています。また、水溶性の食物繊維も約九倍の増加ですから、切り干し大根はまさに腸のすばらしい掃除役として期待出来るわけです。
このリグニンは材木などの堅い組織に多く含まれ、野菜には元来少ないのですが、ゴボウでも大根でも野菜を刻んで放置すると、格段に増加するおもしろい性質があります。
<コレステロールの掃除役>
姫路工業大学の辻啓介教授の研究によると、リグニンは食物の細胞壁を構成 する成分のひとつで、細胞と細胞をくっつける、いわば鉄筋をつなぐコンクリートの役割をしています。リグニンの注目すべき働きは、胆汁の主成分でコレステ ロールが原料である胆汁酸を吸着し、体外に排泄する点にあります。胆汁酸が排泄されるにつれコレステロールも減少してきます。生活習慣病で問題となるのが
LDLという悪玉コレステロールですが、これをリグニンが減らすことで、脂肪肝や肥満をはじめ動脈硬化やそれに伴う心筋梗塞・脳梗塞などの血管がもろくな る病気も予防できるのです。
<大腸がんの予防と有害物質の排出>
大腸がんの予防になるのは不溶性の食物繊維です。不溶性食物繊維の働きは、まず大腸内の環境をよくすることです。腸内には善玉菌と悪玉菌が絶えず勢力争いをしているわけですが、善玉菌が優勢のときが健康な状態です。
乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は食物繊維が最良の栄養源となります。
で すから食物繊維が大腸までくれば善玉菌は元気になります。切り干し大根に多く含まれるリグニンは不溶性の食物繊維で、消化酵素の分解や、腸内細菌の発酵に よる影響を受けません。そのため腸内の善玉菌を活性化して、便のかさを増し、腸に直接刺激を与えて便秘を解消するのです。
厚生省では、一日の食 物繊維の摂取目標を二十~二十五ミリグラムとしています。切り干し大根百グラム中には二十・三グラムと摂取目標の千倍にあたる量が含まれています。この食 物繊維は水分を吸って七~十倍にもなるため、便の量が増え、がんをもたらす有害物質を薄めてしまします。また、切り干し大根にとくに多いビタミンB群も腸
内環境をよくします。このことも日本人に近年増加中の大腸がんの予防につながるわけです。
<カルシウムにすぐれた供給食>
切り干し大根のように干したものはカルシウムや鉄、食物繊維の量が格段に多くなります。切り干し大根百グラム中に含まれるカルシウムは四百七十ミリグラム と牛乳の四倍以上です。また、一本一本にさんさんと日光を浴びた切り干し大根には、太陽のエネルギーが濃縮しています。そのためカルシウムの吸収をよくす るビタミンDも多く、切り干し大根はまさに「野菜のイリコ」といえるでしょう。
<胃腸の強化食>
生の大根には、でんぷんやたんぱく質・脂肪の消化を促し、胃腸薬にも使われるジアスターゼが多いのですが、切り干し大根にも残っています。また、胃腸を強 くする食物繊維やビタミン類、ナイアシンなどもほかの野菜に比べると群を抜いています。この切り干し大根に消化吸収力が抜群の高野豆腐を加えて炊き合わせ
たおかずは、大根の甘みが高野豆腐とよくなじみ、胃腸の弱い子どもやお年寄りに最適の胃腸強化食になります。さらに、生の大根は水分が多く、体を冷やして しまいますが、おひさまの恵みを受けた切り干し大根は水分がとんでエネルギーがアップします。ですから冷え症の女性には生の大根サラダではなく、切り干し
大根のサラダの方がおすすめです。十二月から二月にかけてが新物の季節で、畑で干したての切り干し大根が手に入ります。いろいろな料理に工夫して使ってく ださい。